· 

魔女

 

大学生のとき、絵本作家になりたかった。

絵本の編集者のかたから真っ白の束見本をいただき、

そこに絵を描いては、見ていただいていた。

 

あるときなぜだか、

走る馬のしっぽをつかんでいる

赤いワンピースを着た女の子の絵が浮かんできて、

まだ真っ白のままの絵本の、一番最後のページに描いた。

 

それから、絵本をつくったけれど、そこには馬は登場しなかった。

 

絵本のストーリーはこんな感じだった。

赤い女の子は、風船を持ってふわりと浮かび上がり、空を旅して

それから一軒の家の壁と屋根を息で吹き飛ばす。

 

ロンドンでブランドを始めて、やがて帰国してから

馬と女の子の絵を、ブランドのネームタグにした。

 

それから、3年ぐらい後だと思う。

 

ロンドン留学時代のお友達と、京都の英国風パブにいた。

その子のお友達の、スコットランド人の演奏家のライブだった。

そのかたの奥様に、作品集を見てもらった。

馬と女の子の絵をみたとき

「それじゃあなた、あのお話を知っているのね?」

といわれた。

 

なんのことだろう

 

後日、奥様から、資料が届いた。

スコットランド人の有名な詩人の長編詩に、

あの絵と同じ場面があった。

女の子は若い魔女だった。

 

時空を超えて、あのイメージが、私の頭の中に降りてきたのだったか。

何年も経て、自分が何を描いたのか、謎が解けるとは。